金瑞姫 写真家|インタビュー
写真を通して「光」の存在を伝える
2010年、第3回写真「1_WALL」で、グランプリを獲得した金瑞姫さん。作品「lights」は、人が暮らす部屋を「光をみるための箱」として捉えた作品で、審査員から「部屋にカメラをおいてポンと撮ったような、余計なことを考えていないシンプルさが面白い」「自然光のなかに写っているものを肯定している感じが、幸せ感がでていて良い」と評されました。今回のインタビューでは、作品の背景や、写真を始めたきっかけまで遡りお話しいただきました。
絵から写真へ
小さい頃から絵に興味があってよく描いていました。今でも古典絵画が好きです。それなのに上手くなくて……。高校生の時に、絵がダメなら何ができるだろうって思ったのがきっかけで、写真に興味が湧いて写真部に入りました。写真は、思い描くイメージを定着させられるので、そこに惹かれました。
大学は写真ができるところに行くつもりでした。でも写真の技術だけではなくて、美術全般の知識を勉強したかった。通っていた予備校で相談したところ、多摩美の情報デザイン学科は、表現としての写真が学べるし、それ以外の分野の勉強もするから視野が広がるので向いているのでは? というアドバイスを受けて、入学を決めました。
デジタルからフイルムへの移行
多摩美の情報デザイン学科では、作品が仕上がるまでに3、4回くらいプレゼンをさせられます。企画のプレゼンとか、中間報告のプレゼンとか。言葉にすることや作品をつくるプロセスをどう組んでいくのかっていうことを重要視する。そのことは、今の作品のつくり方にだいぶ影響しています。一年生のときは基礎課程として様々な分野の勉強をしましたが、その中で映像や映像を使ったインスタレーションを作っている先生に惹かれ、二年生以降は映像と空間を扱うクラスを専攻しました。
写真を本格的にやろうと思ったのも二年生からです。でもその頃は今のようにフイルムではなくて、デジタルでした。大体の作品はフォトショップ上で加工をし、出力にこだわったものでした。たとえば、レイヤーを重ねてつくった抽象的な画像を特殊な印刷機をかりてキャンバスに印刷したり。ぱっと見て“新しいこと”にチャレンジしていることが目立つようなものばかりつくっていて、それらは学校では良い評価をもらっていました。でも段々わからなくなってきて……。自分が作っているものがミクストメディアで写真じゃないんじゃないか。もっと写真とはどういうものなのかということを考える作品が作ってみたくなりました。その頃に参加したあるワークショップの内容が、写真を論理的に解釈するというもので、それがとても新鮮で、それから写真にどんどんのめり込んでいきました。
フイルムで撮るようになったのは三年生からで、写真を理解するためにフイルム撮影や暗室作業のプロセスを知る必要性を感じたからです。銀塩写真かデジタル写真か、どちらが良い悪いという意識は今でもありません。必要に応じて、両方で作品をつくっていけるのが理想です。
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“光”の存在に気づく
デジタルからフイルムに変えたときは、二年生のときに評価されていた作品とは様変わりしたので、先生達は驚いていました……。前は面白かったのにって言われちゃう(笑)。まわりの評価がグッと下がったので落ち込んで、本気で悩んで、毎日不安を感じていました。・・・・・・。そういう時期に、朝起きてふっとどけた布団に、窓から差していた光があたった光景を目にして、とても感動したんです。フランスに行ったとき、教会は高窓から光が入ることによって、参拝者に神様の存在を感じさせる建築になっていると聞いたことがあって、その話を思い出しました。
最初は、ただ白い布団に光があたっているからきれいなんだ、白ってすごく重要だなって思っていました。それで白をテーマに作品を作り始めました。紙の白と印画紙の白とモチーフの白。その三つの要素で構成した写真を実験的に作っていました。でも白のイメージをただ抽象化したに過ぎなくて、そこから何も感じない。神聖さは感じない。それで感動した光景に立ち返ってみて、光の存在を強く考えるようになりました。
「lights」と「ether」
それから撮り始めたのが、「1_WALL」に応募した「lights」です。カメラオブスキュラを意識した事と、日常を代弁してくれるメタファーとして部屋を被写体に選びましたが、部屋を撮ることが目的ではなくて、“光”の存在を伝えたかった。何かひとつに目がいくとその部屋の住人の生活が見えてしまう。パンフォーカスを用いたのは、そういった視線の誘導を防ぐためです。あくまで空間にある光、空気を感じてほしかった。また、構図は過去の著名な写真作品や古典絵画を参考に、ある一定のルールを決めて構成していきました。目についた面白い場所を撮るのではなく、部屋という箱の中で予めある程度設定された構図を作り出せる場所を探して撮っていました。
グランプリ受賞後の個展は、「光の受容体」をテーマに、ドイツで撮影した作品を発表しました。ドイツには、尊敬する作家がたくさんいるので、どんな環境でどのように写真を教えているのか、とても興味があったので、今秋から一年間ドイツに留学して勉強してきます。その事前準備として短期留学した際に、個展のための作品をつくりました。ベルリンの一般的な住居はどれも造りが似ていて、日本と同じように撮っていてもうまくいきませんでした。「Lights」では日本の狭い部屋、無理に設けた窓が不思議な光の廻り込み方を作り出していて、それを見せるために一定の時間帯に撮影を行うことを意識していました。「ether」ではそういった建築に依存する採光よりも、時間帯や天候によって変化する光の質感に注目して制作しました。
タイトルの「ether(エーテル)」は、19世紀までの物理学で、光、電気、磁気などを伝える媒質と考えられた仮想物質のことです。今となっては、特殊相対性理論などの確立により廃れてしまった理論ですが、朝の光に照らされる布団の光景を見たときから、エーテルの存在を信じてしまったんだと思います。もちろん物理の問題ですから、信じるとか信じないとかっていうものではないのですが……。でも目の前にあるものがその色に見えること、その形に見えること、その現象は光が作り出していて、それはとても不思議なことですよね。エーテルが空間に充満していて今みている景色をつくっている、そういう仮定のもと作品をつくりました。これから先も、“光”をテーマにした作品を撮り続けていきたいと思っています。
とても多くの方に個展を見に来ていただいいて、そこでいただいたたくさんの素敵な言葉たちは私にとってとても大切な宝物になりました。その言葉を糧に今後も活動していきたいと思います。
ありがとうございました。
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1987年東京生まれ。2010年多摩美術大学情報デザイン学科情報芸術コース卒業。現在、東京藝術大学大学院に在学。
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